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<校長通信> 今、道徳感情論を考えたい

 この原稿を書いているのは令和4年12月19日未明です。日本代表がグループリーグで、強国ドイツ、スペインに勝利し歓喜に沸いたW杯カタール大会がつい先ほど幕を閉じて、アルゼンチンの至宝メッシの手に優勝トロフィーが掲げられたばかりです。このサッカーW杯での戦い、コロナ感染症拡大との戦い、ロシアとウクライナとの戦いを反映し、「戦」が今年の漢字となりました。「戦」もさまざまですが、ロシアのウクライナ侵攻に始まった「戦」は、理不尽極まる人権を踏みにじる非道な「戦」です。即刻終結させ正義ある原状回復を望むべくは21世紀の大人たちが始めたこの「戦」をどう説明できるのか、偽善者のような大人たちの言行不一致を子どもたちに謝らなくてはなりません。

 何とか心を整えるべく、今、考えたいのは、アダムスミスの「道徳感情論」です。人間は利己的な存在であると共に、本性として他人の喜びや悲しみや怒りといった感情を自分の心の中に写しとり想像力を使って同感する能力を持っている。「徳への道」を優先し、心の中の「公平な観察者」が是認し正義感により制御された野心および競争だけが、国際秩序と繁栄をもたらす。自由放任主義が狭義に誤解される「諸国民の富」を書いたスミスのもう一つの著作「道徳感情論」を、今こそ大人たちが考えたい。子どもたちからの信頼を回復するために。

<校報誌 栃の葉 第58号(2023.2)>

2023.02.28

白鴎大学足利中学校